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日本における表現の限界に挑む。映画『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』

Feb 29, 2020 - FILM
あらゆる表現活動が、明確な基準もないまま自主規制で溢れている — そんな危機意識のもとで現状を打破するために制作され、「日本における表現の限界」に挑んだ映画『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』。この映画が未来にもたらすのは、表現の自由の拡張か、それともさらなる規制にまみれたディストピアか

企画・原案・脚本・撮影・写真・声・総監督、齊藤工

我々は規制によって社会を作っている 自らの口を塞いで — そんなメッセージとともに、映画界のタブーに切り込む作品『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』。企画・原案・脚本・撮影・写真・声・総監督を務めたのは、齊藤工。俳優として活躍する斎藤工がこれまでも監督を務める際などに用いてきた本名での表記だが、本作では監督にとどまらずかつてないほど多くの役務を担当しており、それだけでもうこの作品が気になって仕方がない。

なぜ気になって仕方がないのか?ここで彼について少しだけ触れることで、その問いに答えよう。

映画の製作や配給などをおこなう会社に勤める父の影響で幼少期から数多くの映画に触れる機会を得る。10代からモデルの仕事を始め、のちにパリでのランウェイも経験。20代になる頃から俳優としてもキャリアをスタートさせ、数多くの作品に出演を果たし現場経験を重ねる。

その後しばらくすると、自身でもメガホンを取るようになる。『半分ノ世界』(2014年)などいくつかの短編の監督を務めたのち、初の長編に挑んだ『blank13』(2018年)は国内外の映画祭で多くの賞を獲得する。

また、最近ではモデルとしてではなく自らがシャッターを切る写真家としても実績を積んでおり、彼の作品がルーヴル美術館の企画展で展示され、そして賞を獲得するなどますます表現者としての幅を広げている。

齊藤工について知るべきことはまだある。彼は劇場での鑑賞体験が難しい被災地や途上国の子供たちに映画を届ける移動映画館「cinéma bird」の活動を主宰している。映画が持つ力への信念をもって、自身が出演していない、制作にも関わっていない映画を届ける活動にも取り組んでいるのだ。

数多くの映画人からもリスペクトされるほどの映画愛を、齊藤工は持っている。映画ファンならどうしても注目せざるを得ない人物であり、そんな彼がかつてないほどの役回りを全うして完成させた意欲作が『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』だ。彼の映画への愛を知る者なら、きっと気になって仕方がないだろう。

 

某アーティスト集団の作品を含む新感覚のオムニバス

映画『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』には、総監督・齊藤工の意志に共鳴した多くの映画人やアーティストたちが協力・出演している。いくつかの短編を集約した単純なオムニバスではなく、音楽が主役のパートを含む、新感覚の作品となっている。

岩切一空の、観る者の神経を試すような、映像を通じて相互の思考を探り合うような、独特の緊張感を漂わせる映像体験は圧巻だ。飯塚貴士がノスタルジックな人形アニメーションで描く作品は、観る者の中に独善的な正義への嫌悪感の共振と同時に、「正しい社会」の同調圧力への小さな違和感を残す。さらに、ポエトリーリーディングのシーンを牽引するラッパー・狐火、デジタルの要素も取り込む次世代ミクスチャーバンド・GARIのそれぞれの楽曲とともに、スクリーンにはシンボリックな映像が映し出される。齊藤工の監督作では、どこか既視感のある要素を織り交ぜながらそう遠くない退屈な未来を生々しく想像させつつ、ブラックユーモアあふれる展開に思わず笑いも漏れるだろう。

そして最後に、多くを語ることなくぶちかます某アーティスト集団の爽快感溢れるパフォーマンスで締めくくられる(『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』の全編を通じて、某アーティスト集団がこれまで問いかけてきた問題や、彼らの表現に反応する社会側の態度に関する議論に通底する何かを感じていたのだが、エンドクレジットにまさにその名前が現れた時には驚いた。公式サイトでもその名は伏せられているのでここでの明示は避けることにする。ぜひ劇場で目撃してほしい)。

冒頭映し出される“現実”の映像からエンドロールに至るまで、休む隙はほとんど与えられない。70分の映画とは思えないほど濃密で新しい映画体験をぜひ味わってほしい。

 

シリアスでユーモラス、コミカルでシニカル

本作は、表現の自由に関する諸問題を、決して頭ごなしにひっくり返そうという乱暴な試みではない。タイトルこそ『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』だが、厳密な意味でのコンプライアンスやポリティカル・コレクトネスへのカウンターというよりは、表現の拡大解釈に伴い発生する過度な自主規制に主に焦点が当てられているといってよい。シリアスな危機意識のもとであくまでユーモラスに、コミカルな展開の中でどこかシニカルに、ただ主張するというよりは鑑賞者とのコミュニケーションを求めているようにも感じられる。

過度に政治的な主張を伴う映画ではないため、肩の力を抜いて楽しむことができる。そして、観終えたあとは日常に溢れる自主規制にほんの少し敏感になっている自分に気がつくだろう。観る前と後で鑑賞者を変えてしまうだけの力が、この映画には込められている。

 

 

『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』

アップリンク吉祥寺&アップリンク渋谷 ほか全国順次ロードショー

公式サイト

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