独立し、共立せよ。東京インディペンデント2019の企てとは【写真160枚超】
東京インディペンデント2019事務局に今企画の趣意や展望について訊いた。160枚を超える写真と併せて、展覧会に集結した熱量を感じて欲しい。
東京インディペンデントの首謀者は?
企画として保科豊巳、曽根裕、Tommy Simoens、西原珉の名前が挙がっているが、だれか個人がリーダーシップをとって行なっている展覧会というわけではない。搬入についても、30名近い美術のプロフェッショナルがボランティアで企画運営スタッフとして携わっており、さらに633名ものアーティストが参加してくれている。みんなで作りあげた展覧会であり、みんなが代表という認識だ。
東京インディペンデントはすごく単純な展覧会で、ただそれゆえに、そのシンプルな出来事を徹底させるのが何よりも大切だった。つまり「4月12日に、作品を持って陳列館にくれば、展示します」という、それだけを全員が全力で叶えにいった結果がこの展覧会だ。
633名のアーティストから、1000点以上の出品。この規模感は想定の範囲内か?
2019年1月に東京インディペンデントのWEBサイトを制作し、参加表明を募った。2月の段階では30名ぐらいにとどまっていたが、4月12日の会場受付日前には300名を突破。実際300名でも大変だと考えていたが、当日持ち込みも可にしていたため、参加人数がまったく読めなくなった。受付当日13時ぐらいには400名に達し、その後は会社や学校終わりの方が受付に集まった。結果、19時の受付終了までに来場したすべてのアーティスト633名分の作品を受け入れた。
受付したアーティストにはくじを引いてもらい、その順番で搬入してもらった。くじは当たり外れという意味でなく、パラレルでどんな有名な作家も中学生も同じ条件、キャリアも関係なく公平な仕組みとして採用した。いまある構造やヒエラルキーを無くすわけではないが、フラットにしていくことで生まれてくるものは何なのかということをみんなで考え、感じて、見届けたかったからだ。
普通の展覧会は予定調和の世界。誰がいつ、どんな作品をどれだけ持ってくるか分かっている。今回はその場で起きる出来事、こちらに向かってくるパワーを合気道のように受けながらこなしていった。633名もの熱量を受け止めた「カタルシスの岸辺」や「仕事人」と呼ばれる普段はキュレーションを行なっているメンバー、そして受付本部チームの働きの総合力だ。
予定調和でない展覧会づくり。スタッフのモチベーションは?
やったことがないことをやってみよう、見たことがないものを見ようという意思を持つメンバーが集まった。運営は厳格なルールに従うと先細りしてしまう。今回はひとつの「倫理」に則って、まるでブラジルサッカーのようにフレキシブルに対応した。運営に際してルールがないことで起こる不安や恐れを超えていく勇気、信じられる心が大事だと思う。いまは搬出に向けて勇気を振り絞っている。
そもそもアンデパンダン展を開催しようとは思っていなかった。そう考えた時点でアンデパンダンというルールに縛られ、それを成立させるために動くことになる。私たちはアーティストがいかに「共立」していけるか、これは曽根裕が出したテーゼであるが、そのことを模索した。一人ひとり独立・自立したアーティストが出会い、お互いが共振すること。そういう意味を込めてインディペンデントという言葉を選んだ。
そして展覧会として重要なのが安全に十分配慮していること。カオスにするのは簡単。無事故できちんと運営することがプロのインストールチームの倫理だ。またただ壁に掛けただけではない立体的な展示で、各作品の衝突の仕方や馴染み方によるシナジーを生んだ、展覧会としてのクオリティにも注目して欲しい。
作品のクオリティについてはどう感じたか?
パワーがすごくあるし、いわゆる団体展、公募展とは違う熱量を感じた。団体展に見られる制度や序列に縛られない作品が集まった。それはアーティスト同士で見せ合いたい作品であったり、絶対に見て欲しいという熱い思いを込めた作品であったり。作品はどこに置かれるか、隣に何を置かれるかにすごく左右される。場のエネルギーと相まってものすごく作品が面白く見えることがある。今回は訪れるたびに発見がある展覧会になったと思う。
自由出品の美術展を、いま開催する意義は?
アートはもっと自由なもので、本来的には制度とは関係ないものだ。私たち運営スタッフも、参加アーティストも幅広い世代から集まった。参加アーティストには若い方が多いといえば多いが、把握している中では6歳の女の子から70代の方まで幅がある。「いま生きている」ということで繋がったさまざまな人が共鳴しあう場所として東京インディペンデントは存在している。自らがアーティストだと思えば参加してくださいという企画がここでやれたことも素晴らしいが、最大の興味はこの次、さらにその次へとどのようにバトンが繋がっていくのかということだ。今回の出来事は、美大や日本といったフレームにはおさまらない、もっと全世界的、同時代的な出来事として私たちは捉えている。
60年代のアンデパンダン展を想起させるところもある。2019年に開催する狙いは?
今回面白いなと思った批評がある。東京インディペンデントに対して「展覧会というものを通して展示する」ということが教育の過程で人々の中に埋め込まれている結果ではないかという意見。学校教育の段階で美術表現のアウトプット方法を展覧会に限定させてしまっているのではないかと。それはおそらく正解ではあるが、50年前の読売アンデパンダンなどでもそこは変わらない。あのころがピュアでもっと熱量があり、いまは飼い慣らされてしまっているという見方はノスタルジーではないか。人はいつの時代も表現を止めることはできない。東京インディペンデントはいろんな人がいろんな作品を作っているんだという当然のことを改めて感じられる場となった。大事なのは、相互に異なる考えを持つ人々が一時的であってもそこに集まることが出来る「体力」を備えることだと思う。展覧会はあくまでそのためのフレームでしかない。
ネットの空間にはヒエラルキーがなく同時性があり、さまざまな人が参加しやすいという新しい公共性が存在する。フィジカルな空間にはそういった新しい公共性がついていっていない。東京インディペンデントはフィジカルな空間で、ネット空間にあるような新しい公共性—個人と公共の関係、個人と他の関係—を目指した。前のアンデパンダンには制度への反発のようなその時代の要求があったし、今回はネット空間のような新しい時代のみんなの集まり方ができたと思う。同じように見えてそれを支えている構造は違う。
次回開催は考えているか?
予定はないが、東京インディペンデントのバトンが繋がることが重要だ。アーティストはもちろん、参加したスタッフ、そして見てくれた人が次にどう関わっていくのかは未知数で、再度、東京インディペンデントという形で関わるかもしれないし、別の場所でインディペンデント展をやるかもしれない。第2回を開催するというモチベーションよりも、関わった人から別の動きが出てくること、次が生まれることが理想的だ。今回それぞれが得たエネルギーが思い出になる前に、次の出来事が起こってほしい。
私たちにとってのゴールは東京インディペンデントの成功ではない。曽根裕が参加アーティストに発していたのが「この次の展覧会が面白くなれば成功だ。東京インディペンデントは通過点だ」という言葉。ここで得たエネルギーや反省点を次に活かすための通過点として捉えているアーティストが多いだろう。
東京インディペンデント2019
公式サイト
- Text : Yusuke Takayama
- Photography : Naoto Ikuma